走ってみろよ、大丈夫だから/『Catch up, latency』考察

 封入特典のチケット特別先行は、残念ながらご用意されませんでした。

 でもでもでも、今回も今回とてUNISON SQUARE GARDENは素晴らしい。特典の音源もボリューム感あってお得だな。

 さて、『Catch up, latency』の考察を試みたいと思います。

 まず、英訳すると、

 ・Catch up=追いつく、追い上げる、など

 ・latency=(IT用語として)待ち時間、呼び出し時間、潜在、潜伏、とか

 となります。レイテンシーは名詞なんですけど、「待ち時間」「潜在」に「追いつく」・・・?今回も直訳では意味は取りずらい。

 このシングルに収録されてる3曲を貫いて解釈するなら、「走ってみろよ、大丈夫だから」なのかなぁ、と思う。以下、自己解釈です。

 

1、表題曲『Catch up,latency』

 「風が強く吹いている」の主題歌にもなっているので、やはりどこか走るイメージが浮かぶ一曲。そして、歌の中にスタートとゴールが隠されている。

  拝啓、わかってるよ 純粋さは隠すだけ損だ

  敬具、結んでくれ 僕たちが正しくなくても

 拝啓で始まり、敬具で結ばれる形式、手紙ですね。

 1番の前半の歌詞を見てみると、なんだかもどかしそう。心と体がバラバラなような、願望と自分の今が合致していないような。考えて、惑って、ぐるぐるしている「主人公」の姿が見える。そのズレが、そこにいる「主人公」が過ごす時間が「レイテンシー」?

 でも、

   満を持す絶好のカウントダウン

 この場所は、実は満を持したわけではなく、「主人公」がここぞと決めたスタートのカウントダウンだろう。

 「あまりにも不明瞭で不確実で でもたまんない」。 走り出した「主人公」の興奮がうかがえる。

 2番は走り出した「主人公」像と思われる。腹が決まって、地図や向かうべき方向を手に入れた。「太陽よ僕たちを導き出せ」「北極星」。太陽は出ている位置で方角を知ることが出来るし、北極星は船乗りたちの目印として使われてきた歴史がある。けれど、未完成で未熟なままなので、道行は安全で楽勝ではない(「エマージェンシー」)。

 ヘクトパスカルのくだりは、高い方から低い方へ流れてしまう自然の摂理にすら自分の決定権を発揮したい、という意思の表明かな。

 

 まとめると、自分の中に迷いの時間があっても、未完成で未成熟なままでも走り出せば、「拝啓」から「敬具」へたどり着くように、どこかに行けるんだよ、何かの背中に追いつくよってことでしょうか。それは、理想かもしれないし、具体的な誰かや目標物かもしれない。その迷いの時間にいる君を、ちょっと押し出してくれる。

  風なんかは吹いてないのに

 風はどこからか吹いてくるのを待つこともできるけど、自分で動いたらそれに付随して風が発生するもんですよね。

 そして、カップリングの二曲がよくできていて、「Catch up, latency」に並走するような曲になっている。

 

2、「たらればわたがし」

 走り出した道が、いつだって快適とは限らない。

 でも、ユニゾンが歌うのは、「道」はきっと続くし、そこを歩く君は大丈夫だということ。「たらればわたがし」の主人公は、だいぶ不安が積み重なっているみたい。1曲目で勢いよく走りだしたはいいけど…。

 出会う人が良い人ばかりではない。自分の身には理不尽が降りかかるかもしれない。でも、ユニゾンは道行く人を否定しない。「君のとらえ方次第」ってまとめてしまえばそれまでなのかもしれないけど、進んでみれば必ずどこかにたどり着くのだ、と諭す。「違った」ら、また歩くだけのこと。

 綿菓子は、体積はあるけど重さはない。つまり、お供にするには苦労はないけど、実態はきちんとある。出会ったすべてを重く背負い込まずに、連れて行こうよ、わたがしに変えて。そういう感じかな。

 

3、「ここで会ったが獣道」

 歩いていたら熊に出くわした。逃げるにしても、死んだふりするにしても、腹くくんなきゃしかたない。

 穏やかに歩くだけじゃなくて、叫んだり、壁を叩いてみたり、見栄を張ってみたり、気合入れてみたり、そんなことが必要になる日だってある。

 

  ぴかぴか光ったメダルなんか もらうけどインテリア

 

 歌詞全体にケレン味というか、斜に構えた雰囲気が漂う3曲目。インテリアやメダルは、実際なんの役に立つっていうんだろう?名声や称賛を閉じ込めたまま動かない置物。褒められることは悪くないし、評価されることは大切だけれど、それがすべてになってしまわないように旅路を続けることを歌っているのではないだろうか。

 本気も、嘘も、はったりも、強がりも、人生を一言でなんて片づけられないし、表にでないものもたくさんある(「魂ののろしさえ示し合わせぬまま」)。気が合ったなら、一緒に行けばいいだけのこと。道行の保証はできないし、腹をくくる場面もあるだろうけど。

 ユニゾンに出会って、ユニゾンの曲が好きで、追いかけたいと思う。そう思っていられるうちは、一緒に行きませんか?っていう、ユニゾンファン(というか、何かのファンである人たち)へ向けたメッセージとしても読める。

 

 ロックバンドは正しさを保証してくれないけれど、冷徹に見放すこともなさそうだ。私は、聞き手の道=人生を全面的に肯定し、ともにあることを想起させるシングルが、『Catch up,latency』だと受け止めた。なんとかなるよ、っていうのはタダだし、そういう意味ではその言葉を言う誰しもが無責任になり得るんだけど、ユニゾンも何とかなるように走ってるみたいだし、私は次のシングルも買うからね!